ねぇ、好き?
さっき目撃してしまった、崇が女の人と仲良さげに歩く姿が目に浮かぶ。


いつも電話で言っていた“忙しい”っていうのは、嘘?

何で、さっき掛けた電話に出てくれないの?


私の頭の中は、そんな考えでいっぱいになる。

気が付けば、私は佐々木の腕の中で泣いていた。

私が泣いている間、佐々木は何も言わず、私の背中をポンポンと優しく叩く。

それは、小さい子をあやすような一定のリズムで。

そのリズムと佐々木の温もりがすごく安心させてくれる。

不安でいっぱいの私の心を落ち着かせてくれた。


それから、何分が経ったのだろう。

私の涙は止まっていた。

私は佐々木の胸を両手で軽く押し、


「ごめん。シャツ、濡らしちゃった」


佐々木のシャツの胸元は、私の涙で色が変わっていた。


「ん?あぁ……。じゃぁ、シャツ乾かしに、ちょっと寄ってく?」


そう言った佐々木が指を指している方を見ると……

そこは、キラキラと眩しく光るネオン街。


「い、行かないわよ!」


そう言いながら、私は佐々木の腕をバシッと叩く。

それは、冗談ばかり言っている佐々木にいつもするように。


「ちぇっ、残念」


そう言って私を見る佐々木は、悪戯っ子のような顔をして笑っていた。

そして、


「帰ろうか」


佐々木はそう言って歩き出す。

その背中に向かって、


「ありがとう」


そう呟き、私も歩き出す。


帰りの電車の中も、佐々木は本当に何も聞いてこなかった。

黙ってそばにいてくれた佐々木の優しさを、私はすごく嬉しく感じていた。


< 10 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop