飢えた猫は狼をも咬む
Ⅰ.
静寂に包まれた暗い部屋。
外は既に日が登りきっているのか、カーテンの隙間から一筋の光が差している。
「んっ……」
その光に顔を照らされ眩しいのか、ベッドの上に眠る彼女は顔をしかめて枕で顔を隠す。
気持ちよく眠っているのが手にとってわかるほど、規則正しい寝息が聞こえてくる。
そんな彼女の安眠を妨害するかのように、携帯の着信音が部屋に鳴り響く。
喧騒に包まれるも抗うように眠っていたが、さすが堪えるものがあったのか彼女は半分しかない意識のなか片手で携帯を探す。
しかし、その片手に携帯が触れることはなく焦らされた彼女はいい加減、起き上がり携帯を見つけるや否や手にとる。
「あー、うっさいな。誰からよ」
ディスプレイには“目覚まし役より”と表示されていた。
あからさまに顔を歪め、不機嫌を丸出しにして電話にでる。
「おー!今野。生きてるか?」
携帯の向こうから聴こえてきた声の主は低く男性のもので、聞き覚えのある苛立たせるのが上手い人の声だった。
ぐっすり気持ちよく寝ていたところに電話をひっきりなしに鳴らされ、機嫌が悪い彼女——今野紗和は静かな怒りを込めて言う。
「死んでます、さようなら……」
出て颯爽に切ろうとした彼女の行動を察したのか電話の相手は焦りの声をあげ、釘を指した。
「お、おい!!待てまて、切るなよ」
止める澤部の声に余計苛立ちが募る。
「ちっ……それで何か用ですか?」
「え、担任の私に舌打ちしなかっーー」
「それで担任の澤部先生。一体なんのご用件でしょうか?」
咎める声を遮って不機嫌全開な声を出して問う彼女に電話の相手ーー担任の澤部はため息をついて応える。
「お前のその機嫌の悪さといい、起き上がりのような声といい、今さっきまで寝てただろ……今何時だと思ってる?」
「……」
「無言でいれば逃げれるとおもっーー」
長ったるい説教が始まりそうな予感を悟り、彼女は電話を切った。