カリスマ社長に求婚されました
あの夜を思い返してみれば、たしか船に着いたばかりの頃に、駐車場で優一さんがしばらくどこかへ行っていた気がする。

あのときは、あまり気にしなかったけど、まさかその『かんこう令』のためだったというの……?

たしかに優一さんは、失恋したばかりの私を気遣ってくれていたことは知っている。

だけど、そこまでしてくれているとは思っていなかった。

胸が熱くなるのを感じながら、険しい顔を崩さない奈子さんを見据える。

「今夜は秘書の人も同伴だと、広報部の人から聞いてたの。すぐにピンときたわ。あのパーティーの人なんだろうって」

「なんでですか?」

「だって、優一は秘書なんてつける人じゃなかったから。きっと、公私混同してるんだって、思ったわよ」

最後は語気を強めた奈子さんは、鋭い目で私を睨んだ。

「そんな……。公私混同だなんて……」

むしろ、仕事のない私に手を差し伸べてくれたからなのに、そんな風に見られているなんて、いたたまれない気持ちになる。

「とにかく、私は優一と別れたこの四年間を、まるで納得できないまま過ごしてきたの。あなたみたいななんの取り柄もない人に、彼を奪われたままだなんて、割り切れないわ」

「えっ?」

気圧されてる私をいちべつした奈子さんは、身を翻すと化粧室を出て行った。
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