カリスマ社長に求婚されました
と言った私を、優一さんはしばらく放心状態で見つめていた。

「優一さん……?」

声をかけると我に返った彼が、目を泳がせている。

「ちょっと、待って。距離を置きたいって、オレたちはまだ、付き合って日が浅いんだぞ? むしろ、距離を縮めていく段階じゃないのか?」

「だって……」

煮え切らない態度がますます優一さんの不信を買ったようで、彼は動揺を鎮めるようにひと呼吸置いてから、私の腕を掴んだ。

「帰ろう。茉奈の主張は、まるで受け入れられない」

半ば強引に腕を引っ張られ、私はとっさにふりほどいていた。

社長室の向こう側には、他の社員たちがいるのに、手を引かれる姿なんて見せられない。

カリスマ社長として有名な優一さんの足を、私の存在で引っ張ってはいけないと思ってしまっていた。

「茉奈?」

訝しげに見る優一さんに、私は緊張を感じつつ口にした。

「ケジメをつけたいなって……。私は、ここではあくまで優一さんの秘書だから。手を引かれるっていうのは、ちょっと……」

「分かった。手は離すよ。だけど、一緒には帰ってほしい」

優一さんはゆっくり手を離してくれ、私を真剣な顔で見据える。

これ以上、拒絶しても優一さんのフラストレーションを溜めるだけかもしれなくて、小さく頷くしかなかった。
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