カリスマ社長に求婚されました
ため息を呑み込みながら、事前に配布されている資料に目を落とした。

話したくないし、話す必要もない。

今日は、優一さんとの休日を潰してでも参加するセミナーなのだから、講義に集中しよう。

すると、彼女の方から話しかけてきた。

「和也、とても元気にしてますよ。今日は、会社の命令で参加したんですけど、坂下さんは？ やっぱり会社命令ですか？」

「ただの自己啓発です。それに、和也の近況報告なんて、いりませんから。彼がどうしようと、私には関係ありません」

和也に未練なんて、一ミリもないのは当然だけど、やっぱりこの人を見ると腹ただしくなる。

今は優一さんの愛で満たされているけど、ellのショップの前で感じさせられた絶望感は、今でも思い出すことができた。

「そんなこと言わないでくださいよ。和也、とても心配してたんですから。坂下さん、立ち直れたかなって」

なんて嫌みな人なのだろう。

チラッと視線を向けると、これみよがしに左手を私に見えやすいように立てている。

その薬指には、私も知っているellの指輪が光っていた。
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