カリスマ社長に求婚されました
彼を見送ったあと、ドレスを脱ぎシャワーを浴びる。

明日の朝、ドレスは向井さんが取りにきてくれるとのことで、ハンガーにかけておいた。

「こんな部屋を取っていて、高級車に乗っていて、見ず知らずの私をパーティーに参加させてくれて、相良さんはどういう人なんだろう……」

嶋谷副社長みたいに、どこかの御曹司なのかもしれない。

そうでなければ、今夜の出来事はとても理解できそうにないもの。

本人に聞けば解決するけど、初対面の人にあれこれ尋ねづらいし、相良さんは最初からフルネームを教えてはくれなかった。

だから、あまり踏み込まないほうがいいのかもと、私になりに考えて聞かないでおいた。

どうせ明日からは、二度と会うことのない、私とは住む世界が違う人。

そうやって、気持ちを切り替えて忘れていくしかない。

「そうだ。ハンカチ、綺麗に洗って明日の朝には返さなくちゃ」

シャワーを浴びるときに外して、洗面台に置いたままになっていた。

取りに行き、改めて広げてみると、右下に『Y』のイニシャルが入っていることに気づいた。

刺繍されているそれは、ブランドのロゴマークではない。

ということは、相良さんの名前……?

「名字だとSになるから、きっと下の名前なんだわ」

や行の名前なんだろうけど、気にしないようにしようと自分に言い聞かせる。

相良さんは、今夜限りで終わる人なのだから。

部屋に備え付けの洗剤でハンカチを洗うと、ハンガーに吊るした。
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