カリスマ社長に求婚されました
私が住むマンションは、中心地から電車で約三十分の郊外にある。

五階建てで部屋数は十部屋。

特にオシャレ気のないシルバーの建物で、一DKの一人暮らし用になっている。

周りにはスーパーやコンビニ、それに同じような低層マンションが建ち並んでいて、それなりに賑やかしい場所だ。

私の部屋は三階にあり、戻るとすぐにルームウェアに着替えた。

ほんの数十分前まで、豪華客船にいたとは思えないくらい、ここにはテレビとベッド、それに小さなドレッサーとハンガーラックがあるだけ。

これがいつもの光景だと分かっているのに、どうして色あせて見えるのだろう。

バッグからハンカチを取り出し、丁寧に広げる。

傷ついた膝を巻いてくれたものだから、血がシミになっていないか心配だったけど、大丈夫みたいだ。

「せめて、会社名だけでも聞けれていたら、連絡が取れたのに……」

この胸がポッカリと開いた感じは、なんだろう。

二度と会えない人だと分かっていたつもりなのに、寂しくてたまらない。

不意打ちに帰られたから、余計に孤独感を感じているのかな……。

相良さんのことは、きっぱり忘れなければいけない。

彼からも連絡先を聞かれなかったのだから、それが相良さんの答え。

私とは、一夜限りの思い出だよ……と。
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