カリスマ社長に求婚されました
ハンカチは、万が一偶然出会えたときに返せるように、常にバッグに入れておくことにした。

心のどこかで、それを期待している自分がいるから……。

しばらくは切なさが蘇りそうだけど、せっかく相良さんが素敵な時間をくれたのだから、これからは前へ進んでいかなければいけない。

気を紛らわせるために、ベッドに座りテレビをつける。

すると、ちょうどクリスマスの特番をやっていて、先月行われた嶋谷副社長夫妻の結婚式の話が出ていた。

どうやら、この局は嶋谷副社長の経営するところらしい。

ゲストの若い女性タレントが、中年の男性司会者と盛り上がっている。

内容は、由香さんの結婚指輪についてで、なんと数千万円はするellの指輪だった。

「ellの指輪だなんて、羨ましい……」

思わず食い入るように見てしまったけど、テレビをつけてもellの話でため息をついてしまった。

和也との失恋と、相良さんとの一夜の夢、その両方を思い出させて涙がじわりと浮かんでくる。

チャンネルを変えてしまおうと思い、リモコンに手を伸ばしたときだった。

「このellを創業した相良社長は、なんとまだ三十二歳という若さなんですよ」

司会者の言葉に、動きが止まる。

「すごくイケメンの方ですよね? 私もパーティーでお会いしたことがあるんですよ」

興奮気味に話す女性タレントの言葉のあとに、映し出された顔写真は、昨夜出会った相良さんだった。
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