橘さんちの子供たち ~ ver.明希
プロローグ
橘さんちの子供は4人。
無口で真面目な父親とおしゃべり大好きな母親。
元気いっぱいな子供たちの極々普通の6人家族。
ただ…
ちょっとだけ…ほんのちょっと…いや、もう少し…。
母親早苗の思い込みは激しいのかもしれない。
4人の子供たちがまだ、上から6歳、5歳、3歳、2歳の頃。
「橘さんちの子、ちょっと乱暴よねー。やっぱり男の子が多いとそうなるのかしら」
同じ幼稚園のママたちのヒソヒソ陰口を聞いてしまった早苗。
飛び出していって言い返してやりたい気持ちをグッと抑えて心に決めた。
元々負けん気も強い彼女。
(ふざけんじゃないわよ!いいわ。あんたたちの子供が足元にもおよばないくらい見返してやる!)
その日からの早速近所の空手教室に4人を入れ、
「いい?女の子には優しくすること!暴力はふるわない!でもやられたらやり返しなさい(?)!!」
って、ちょっと矛盾してる自己流の英才教育を始めた。
それまでの早苗の座右の銘は
『のびのび育て』
その通りに育ったきた子供たちは、いきなりの変化に戸惑いはしたものの、のびのびと育ったおかげで素直な性格。
そんな早苗の変化も素直に受け止め、毎日せっせと空手教室に通い、女の子が困っていたら助け、面倒な男の子も軽くかわし、すくすくと…そう、早苗が描く、理想通りの男の子に育っていった。
やがて…月日がたち、運命の冬がやってきた。
2月14日、バレンタインデー。
陽斗(はると)18歳 ー 高校3年生。
春から推薦で地元の国立大へ。
身長178㎝、黒髪さらさらの知的な眼鏡男子。
チョコレートの数、27個。
風幸(ふゆき)17歳 ー 高校2年生。
サッカー部キャプテン。
身長180㎝、身体が引き締まった野性的な男子。
チョコレートの数、24個。
那都生(なつお)15歳 ー 中学3年生。
水泳部元エース。
今は高校入試に向けラストスパート中。
身長170㎝、童顔系男子。
チョコレートの数、13個。
そして…
この物語の主人公。
明希(あき)14歳 ー 中学2年生。
全中空手県ベスト4。
身長172㎝、手足が長く、綺麗な顔立ち。
チョコレートの数30個。
チョコレートの数で分かるように、4人ともとてもモテる。
その評判は近隣の市にまで及ぶほど。
そのチョコを前に、早苗はガッツポーズをした。
(見たか!乱暴な子供ってバカにしたアホ母親。ちょーっと頑張ったら、うちの子はこの通りだよ!)
27個、24個、13個、30個…
(あれ?)
早苗は首をかしげる。
何か引っかかる。
何か大事なこと忘れてるような…
…
…
…
「…あー!!!!!」
血の気が引くとはこのことだ。
早苗は子供たちを立派な評判男子にすることに夢中で大事なことをすっかり忘れていた。
橘さんちの4人の子供たち。
確かに男の子が多い。
だが…
上から男、男、男…そして、
早苗はふらふらと座り込む。
「明希まで男らしく育っちゃった…」
橘さんちの4人の子供たち。
4人目は女の子。
これは思い込みが激しい母親に育てられた、モテモテ王子女子の苦悩な日常生活のお話です。