好きって言っちゃえ
似たり寄ったりのグダグダな試合というものはフルセットにもつれ込み、意外と時間がかかるもので、待っている緊張が切れそうな時に、舞の携帯が鳴った。
「あ、美雪だ。…はい。うん、2階のスタンドにいるよ」
手短に電話を切ると間もなく美雪が大きな籠を抱えてやって来た。
「良かった〜、間に合って。おはようございます。皆頑張ってね」
「頑張るけどさぁ。何この荷物?」
「何って、差し入れよ、差し入れ」
「あ、片岡さん。もしかして、サンドイッチ作って来てくれたんですか」
航が美雪の近くに歩み寄った。
「そうよ。あ、その前に、今日は『美雪ちゃん』ね」
「あ、スミマセン。美雪ちゃんね…」
「そう、それで皆どんな具が好きかわかんないから沢山作って来ちゃったんで遅くなっちゃった」
と、肩をすくめる美雪。その仕草は正しく乙女である。
「へー、皆の分作ってきてくれたんっすか」
「うん」
「気が利きますね〜」
と言いつつ、光俊はサンドイッチの籠を見ながら目線を露骨に舞へと移した。
「何よ?…っ!気が利かなくてすみませんねっ」
そのやり取りを見て、ニヤっと笑って、美雪が舞の肩を肩でちょっと押した。
「ん?どうかしたんすか?」
美雪の動きを不思議に思う光俊。
「何でもないっ!」
舞がそう答えたところで、1試合目がようやく終わり、ついに『チーム京極』の出番がやって来た。
「よしっ、じゃ、行こうか」
悠一を筆頭にコートに降りて行くメンバーを、
「いってらしゃ〜いっ!」
と、笑顔で見送る美雪。そしてサンドイッチの籠を抱え、一番前の席に移動した。