好きって言っちゃえ
ピピーっ!
試合終了のホイッスルが会場に響いた。1セット目25−19、2セット目25−22。ストレートでチーム京極は負けた。
「はぁ…」
ショックのあまりコートエンドから動けないチーム京極の面々。そこに熊田がやった来て、
「田中っ、俺に勝とうなんて100年速いぞ。京極っ、明日練習サボるなよ。鍛えてやるからな。はっはっはっ!」
と、まさに勝ち誇った笑いを残して立ち去って行った。
「あ〜あ」
「…帰るか」
肩を落とし、コートに背を向けて行こうとしたとき、後ろから小走りで近づく足音が聞こえ、何気に皆が振り返ると、コートを横切って近づいてきたのは桃子だった。咄嗟に両手を広げて航の前に立ちふさがる、光俊と舞。
「何やってるんですか?」
「あ、いや何って…」
言い淀んでいるうちに近づいてきた桃子が一直線に目指して来たのは、悠一の前だった。
「あれ?」
肩透かしにあった光俊と舞、そして航もそのまま固まった。ちょっと固い表情で桃子が悠一に話しかけた。
「田中さん。こんにちは」
「こんにちは、久しぶりだね、桃子ちゃん」
悠一は優しい笑顔を桃子に向けた。
「あ、覚えててくださったんですね」
パッと桃子の顔が和らいだ。
「あ、そういう事ね」
光俊は、広げた両手を下し、ジッと桃子を見つめている航の背中を押した。
「ほら、行くぞ」
「…」
「ほら、お前らも。行くぞ、行くぞ」
立ち止まっていた秀人と哲平の背中も押しつつ光俊は会場を出ることを促した。悠一と桃子を気にしつつも、舞も光俊について会場を出た。
会場を出ると、哲平が立ち止まった。
「でも、悠ちゃん来ないと帰れないじゃん。置いて帰るわけじゃないんでしょ?」
「まぁ、それは西尾次第だな」
「西尾さん次第?」
「はいはい、子供はおばちゃんにジュースでも買ってもらってちょっと待ってなさい」
と、光俊は舞を見た。
「え?おばちゃん?」
光俊におばちゃん呼ばわりされてムッとする舞の前に、
「おばちゃん、ジュース買って」
と、ニッコリ哲平が立ちはだかった。確かに哲平にとっては正真正銘の叔母ちゃんである。
「…もう。しょうがないなぁ。長岡くんもおごってあげるから一緒にいらっしゃい」
「わ、やった」