好きって言っちゃえ
剣二は立ち上がりながらそう言うと、逃げるように部屋を後にした。
残されたのは、舞と、哲平。
「僕ねぇ、『こい』のが好きだから」
「は?『恋』が好き?」
「だから、『濃い』味の方が好きだって言ってんの、グラタン」
「あ〜、グラタンの話…」
「グラタンの話に決まってんじゃん」
「グラタンねぇ…」
「ねぇ、グラタン作ったことあんの?」
「ん〜。10年ぐらい前にね」
「え?10年?ねぇ、ちゃんと作れんの?ねぇねぇ」
「うるさいなぁ。作れるわよ。めっちゃホワイトソースの濃いの」
「ほんとかなぁ〜」
「うそ、うそ、うそっ。だから、おばあちゃんにやっぱり舞に作ってもらいたくないって、言っといて」
そう言うと、舞はスックと立ち上がった。
「え?」
「じゃ、頼んだわよ」
そう言い残すと、今度は舞が逃げるように部屋を出て行った。
「あっ!舞っ!」
急に話を切り上げて出て行った舞に哲平が呼びかけた時、台所から悦子が戻って来た。
「あら?舞は?」
「出てった」
「もう、後片付け手伝わない気かしら」
「グラタン上手に出来ないから、舞に作ってもらいたくないって、おばあちゃんに言えってさ」
「ん?」
「グラタン作ったの10年前なんだって」
「まぁ、10年…。あの子、本気で彼氏いなかったのかしらね〜」
舞の姉、愛が亡くなってから約10年である。