好きって言っちゃえ
悦子はさり気なく周りを伺い、店内に自分と剣二しかいないことを確認すると、真顔になって、少し声を潜めた。
「もう、言っちゃうけど、寮を建てる気になったのは、実は…」
悦子は、カウンター越しに立っている剣二の方に少し身を乗り出して、さらに小声で囁いた。
「舞の結婚相手が見つかるといいなと思ってなの」
「へ?」
悦子の急な告白に思わず素っ頓狂な声が出た剣二。
「あ〜、大きな声出さないでよ。舞には内緒合なんだから」
悦子は、口の前に人差し指を立て、眉間に皺を寄せる。
「ああ、すみませんっ」
剣二もつられて人差し指を口の前に立てると、小刻みに頷いた。そして、少し落ち着くと、小さな声で悦子に話した。
「お義母さんのそんな策略があったって知ってたら、舞ちゃんにも面接に立ち会ってもらったんですけど。僕と悠一くんで選んじゃったんで、ちょっと、舞ちゃんの相手としては、若かったですかね?」
「ううん、いいのよ、いいのよ。年齢なんて。哲平が言うように、ホントは悠ちゃんと結婚してくれると嬉しいんだけど、そんな話したら、悠ちゃんに迷惑でしょ」
「はぁ、まぁ、そうですね。あの2人、10年以上一緒にいますけど、付き合ってるような話にはなってないみたいですしね。ま、悠一くんが結婚しない主義とかではないと思いますが」