好きって言っちゃえ
「お前はサッサと食べて学校へ行け。遅れるぞ」
剣二にそう言われて、掛け時計を見上げた哲平は
「あ、ヤベッ。もう、おばあちゃんが焦がすから~」
と、もごもごと言いつつ、トーストを急いでがっつき、口に頬張ったままでグラスを取り、冷蔵庫から牛乳を取り出し注ぐと、のどに詰まっているトーストを一気に流し込むように飲み干し、空のグラスを流しに置いて、
「行ってきますっ!」
と、小走りで出て行った。
「行ってらっしゃい」
残った3人は哲平の後ろ姿を見送ると改めてテーブルに向き合った。
「で?美雪ちゃんが狙っているのはドッチなの?」
悦子が興味津々の目で舞を見る。悦子と剣二はバレーにノータッチだったので、美雪が航狙いだとは知らないのである。
「どっちだっていいでしょ。そこは母さんに関係ないじゃない」
ウザそうに答える舞。
「あら、関係あるわよ」
「なんで?」
「2人ともうちの従業員ですからね。仕事休んで行かせるんなら、そのくらい聞いとかなくちゃ」
「さっきは、あっさりと行っていいって言ってたじゃない」
舞は面倒くさそうに顔を歪めて悦子を見た。悦子が舞を結婚させるためにアパートまで造った悦子の胸の内を知っている剣二は、思わず笑ってしまいそうなのを抑えて、口を挟んだ。
「とにかく、舞ちゃんも参加するんだったら、美雪ちゃんのアシストだけじゃなく、ちゃんと自分の事も考えて、参加した方がいいんじゃないかな?」
「ん?自分の事?」
「そう、その通り。剣二はさん、良く言ってくれたわ」
「だから、私は結婚しないって」
「そんなこと言って~。どうするのよ、美雪ちゃんがもし平野くんと結婚しちゃったりしたら、寂しいわよ~」
「え?」
悦子は当てずっぽうで『平野くん』と言ったのだが、『美雪と平野が結婚』という響きに不覚にも舞は一瞬怯んでしまった。