好きって言っちゃえ
そしてその一瞬の表情を見逃さなかった悦子と剣二はこの話を切り上げることにした。
「とにかく、2人には俺から言っとくよ。ま、理由はまた人数合わせってことでね」
と、剣二。すかさず悦子も、
「そうね、それがいいわね」
と、話をまとめた。
「・・・じゃあ、宜しくお願いします」
舞は、何となく話が終わった流れに乗って、剣二に頭を下げて、立ち上がり、台所を出ようとする。
「舞、あんたご飯食べないの?」
何も食べてなさそうな、舞に悦子が呼びかけた。
「ん?ああ、今日は、いいや」
話が急に収束したので、拍子抜けした舞は、そのまま台所を出て行った。その後ろ姿を見送ると残された2人は改めてテーブルに向き合った。
「脈あるわね」
2人きりなのに、小声で悦子は不敵な笑み浮かべて剣二に向かって囁いた。
「ですかね」
剣二もニヤリとして答えた。
「こうなったら、美雪ちゃんの結婚も応援してあげたいから、剣二さん」
「はい」
「平野くんと西尾くんに、人数合わせだけど、本気で参加しなさいって、伝えて頂戴」
「了解しました」
「悠ちゃんも、あの女の子と結婚しそうなのよね?」
「そうですね」
「これで、平野くんと舞、西尾くんと美雪ちゃんが上手くいってっくれたら言うことないわね~」
「そうですね」
「あっ!」
「他に誰か?ああ、長岡はまだ結婚はしないと思いますよ。美雪ちゃんと一緒に働いてるブライダルハウスの子が好きみたいですが、向こうには全然相手にされてないようですし」
「長岡くんはこれから一人前になってもらわなきゃいけないから、まだまだよ」
「ですよね」
「長岡くんじゃなくて、あなたよ、あなた。剣二さん」
悦子はにっこり満面の笑みで剣二を見つめた。
「え?僕ですか?」
悦子の熱い視線を受けて、剣二は焦げたトーストを持って固まったまま、瞬きだけは何度も繰り返した。