好きって言っちゃえ
「・・・」
「初めまして」
「あっ。初めまして」
向かいに座った男性に声を掛けられて自分が光俊の姿を目で追っていたことに気づかされた舞。
脳裏に、剣二の『自分の事も考えて』という言葉が不意に蘇ってきた。このタイミングでその言葉が浮かんでくること自体、もう、舞は光俊を意識している自分を否定することが出来ない自分がいるのを感じ始めていたのである。そのころ、美雪は、
「ですよね~。ははっ。」
と、航が回ってくるまでのトークをピンクのワンピ―スに似合った柔らかい笑顔で無難にこなしていた。そして、いよいよ隣の席まで航が迫ってきた。そうなってくると、徐々に緊張してきた美雪。
「はい。・・・はい」
と、最早、相手の言葉に返事しか出来ない状態となっていた。美雪はそのくらい、並々ならぬ決意でこのお見合いパーティーに臨んでいるのである。
「さぁ、5分経ちましたよ~。席を移って下さ~い」
ついに、美雪の前に航がやってきた。
「ども」
航は親し気なリラックスした笑顔で美雪の前の椅子に座った。
「どうも」
美雪は少し硬い笑顔を返す。いや、今の美雪にしたら、これが精一杯の満面の笑みなのである。
「なんか、不思議な感じしますね」
と、不意に航が呟いた。
「えっ?・・・ど、どういう事?」
『不思議』と言われ、その意図が分からず思いっきり動揺する美雪。航の方は美雪が自分の一言にそんな敏感になっているとは思ってないので、普通に会話を続ける。
「いや、普段は黒づくめだし、バレーの時はジャージだったし。こんなオシャレな姿初めて見るんじゃないですかね」
と、マジマジと美雪のワンピース姿を見る航。もう、そんなことされたら居たたまれない美雪の心情など、知る由もない航。
「は、ははっ、ははっ。に、に、似合わないよね・・・」
「いやっ、そんなことないですよ」
力なく笑う美雪の反応に慌てて否定する航。