好きって言っちゃえ
男性陣が次々の席を移動し、舞の前に航がやってきた。
「ああ、西尾くん」
見知った顔が現れて、ホッとする舞。知らない人にいいところしか見せないように話すのは疲れるものである。
「なんか、安心しますね」
航も同じ気持ちのようだ。が、航の場合はそれだけではない。
「俺、舞さんが、回ってくるの待ってたんです」
「ん?やだぁ。私を狙ってんのぉ~?」
「・・・」
舞の冗談に全然ついてこない航に、舞はつまらなそうな顔をして謝った。
「冗談よ、ごめん、ごめん」
「いや、こっちこそすみません。そういう意味じゃなくて」
「わかってるわよ。美雪の事でしょ?」
「そうです!」
航は目を見開いて、少し前かがみになり、舞の方に顔を近寄せた。
「好きって言われちゃった?」
「はい。・・・僕、どうしたらいいんでしょうか?」
「どうしたらって。気にしなくていいんじゃない?」
「へ?」
内心、『美雪をよろしく』的な事を言われると思っていた航は、拍子抜けした声が出た。
「だから、気にしなくていいって。今日はそういう場なんだから」
「はぁ・・・」
「美雪に何と言われようと、西尾くんは西尾くんでこの中で一番いいと思う人を選べばいいのよ。その結果、美雪がいいなと思ったら、その時は、躊躇せずに美雪を選んであげてよ」
「・・・」
「あ、もしかして、元々、美雪のことは嫌いだったりして?」
「あ、いえっ、決してそんなことは」
「そう、それはとりあえず良かった」
「あの、ひょっとしてなんですが」
「何?」
「バレーしてた頃、片岡さんに良くしてもらってたイメージがあるんですが、もしかしてあの頃から・・・」
「そうよ、あの頃から狙われてたのよ」
「狙われてたって・・・」
「だから、もう限界みたいよ。モヤモヤするのが」
「モヤモヤ?」
「白黒はっきりさせたくて、今日ここに来たんだから。白でも、黒でもはっきりすればそれでいいのよ。だから、たとえ美雪を選ばなかったとしても、美雪に恨まれて仕事に差し支えるなんてことはないから、大丈夫よ」
「あ、それは、片岡さんにも言われました」
「おお、さすが美雪。かっこいい女だね~。あっ!やばい、西尾くんは可愛い方が好きなんだったよね?」
「え?」
「美雪今日は、柄にもなく、桃子さん風にピンクのワンピースなんだから」
2人は首を回して美雪の方を見る。と、その時、
「は~い。交代ですよ~」
の声。
「ま、そういう事だから」
「わかりました。ありがとうございました」
航はひょこっと頭を下げて、次の席へ移動して行った。