好きって言っちゃえ
「・・・死にそうな人ってのは?」
「あの人に決まってんじゃない」
美雪が小さく指さした方を二人で見る。そこには当然、舞の姿があった。
「いやいやいや、あの人、死にます?」
「少なくとも、本人はそのつもりよ」
「絶対死なね~」
「でもさぁ」
「でも?」
「本人は死ぬつもりなんだから、『あなたの保険金狙ってます』って、言って近づいても問題ないじゃない」
「なるほど~・・・って、ならないっしょ」
「そう?」
「そうって・・・。あ、もしかして、そんな話を社長にしたんっすか?」
「うん。社長は乗ってくれると思ったんだけどなぁ」
「こんな借金まみれの男を義理と言えど妹に勧めるわけな・・・」
『ない』と言おうとしたとき、不意に光俊の脳裏に『じゃ、家族になればいい』と言った剣二の顔が過った。
「どうしたの?」
「あ、いえ・・・」
「あの舞のバカげた話に向き合えるのは平野くんだけだって、期待してる。だって、私だけ幸せになったら、舞に恨まれるでしょ」
と、美雪は最後は茶目っ気たっぷりに光俊を見た。
「おお~、強気っすね。ま、頑張ってください」
「頑張るわよ」
美雪が小さく右手腕でガッツポーズした所で席替えとなった。その後、何度か席替えを繰り返し、舞の前に光俊が戻ってきた。
「は~い、お疲れ様でした~。それではここからフリータイムです。自由な席で食事を楽しみながらこれぞと思う方には積極的に話しかけてくださいね~」
司会の方のその言葉を合図に全員バラバラと席を立ちあがり、1対1のトーク中に準備されたバイキング形式の料理を取り始めた。
美雪は航が向こうにいるのを確認しながらも、真っすぐ近づくのも気が引けて何となく料理を取る列に皿を持ってならんでいると、
「片岡さん」
と、後ろに並んだ男性に声を掛けられ、びっくりしながらも振り返ってその男性を見上げた。
「あ、はい」
「良かったら、一緒に食べませんか?」
素敵な笑顔でそう誘われて、一瞬迷って美雪は視線の先にいるはずの航を見たが、そこにはすでに航の姿はなかった。そうなってくると断りにくいな~ともう一度男性を見上げた美雪の目に入ったのは、
「ちょっとすみません」
と美雪とその男性の間に割り込んできた航の姿だった。