好きって言っちゃえ
思いがけない光俊の申し出にびっくりした舞は、思わず大きな声が出た。
「そうっすか?じゃ、俺、先行って受付してきますね」
そう言うと、光俊は小走りで先に行ってしまった。
「・・・はぁ」
舞は大きなため息をつくと、ゆっくりと歩き始めた。病院の中に入った光俊は受付で声を掛けた。
「あの、すみません」
「はい。どうされましたか?」
「急に胃が痛みだしたみたいなんですけど」
「みたい?」
「あ、僕じゃなくて、今からくる連れが」
「お連れ様ですね。じゃ、来られたら、この問診表にご記入お願いします。それと、体温計渡しておきますので、測ってもらってっください」
「はい」
光俊が問診表と体温計を受け取って振り帰った時、丁度舞が入ってきた。
「あ、舞さん、こっち、こっち」
光俊に、小さく手招きされて、舞は、光俊が陣取った待合の長椅子の光俊の隣に座った。
「はい、熱測って。その間にこれ、記入して下さい」
光俊に両方手渡され、素直に従う舞。脇に体温計を挟み、問診表に記入し始めた舞を見て、光俊は思わず、
「・・・人って、やっぱ、弱ってるときは素直なんすねぇ」
と、漏らしてしまった。その呟きに、一瞬手を止めて、横目でキッ!と光俊を睨んだ舞だったが、胃の痛みの方が勝っていたので、それ以上は突っ込まずに記入を進めた。
「・・・すみません」
光俊が小さく謝って、しばらくすると、再び、舞の手が止まったことに気づいた光俊は、思わず問診表に目をやった。舞の手が止まった項目は、
『親族に癌(がん)になった人がいる・・・はい いいえ』
というものだった。舞は、胃をさすりながら『はい』に丸を付け、その下の『胃』にも丸を付けた。全ての項目に答え終えると丁度体温計がピピピッと鳴ったので、舞は立ち上がって、体温計を取り出して、問診表と一緒に受付へ提出し、待つように言われて、元の席に戻った。