好きって言っちゃえ
そして、剣二たちの長男、哲平が生まれたのを見届けると、間もなく息を引き取った。義父の葬儀の日、弔問に訪れた人の中に、幼い頃京極家の近所に住んでいた田中悠一(タナカ ユウイチ)の姿があった。
この時悠一はもうすぐ専門学校の卒業をするスラッと背の高い21歳。実は子供の頃、京極家の子供たちと遊んでいるところを愛たちの父に沢山写真を撮ってもらっていて、いつしかカメラに興味をもつようになり、その流れで、写真の専門学校へ進んでいた。就職活動の中、久々に京極写真館を訪ねてみたところ、訃報を聞いたのである。そんな、悠一に剣二は、
「大した給料払えないけど、京極写真館を助けてくれないか」
と、持ちかけ、大手の写真館に就職が決まりかけていた悠一だったが、
「ここが、僕の写真のスタートですから、喜んで」
と剣二ににっこり微笑んでから頭を下げ、内定していた写真館を蹴り、京極写真館に就職を決めたのだった。