好きって言っちゃえ
お見合い写真
「行ってきます」
「いってらしゃーいっ!」
日曜日、スタジオで赤ちゃんの撮影が入っており、秀人にも赤ちゃん撮影を経験させようということで、珍しくブライダルハウスには剣二が行くこととなり、航と光俊と共に車に乗り込んだ。動き出だす車を両手を振って見送ってから、秀人はダッシュで3階のスタジオまで駆け上がる。
「出発しましたっ!」
スタジオに入るなり大きな声で報告する秀人。スタジオでは舞と悠一が撮影の準備をしていた。
「長岡、こっち」
「はいっ!」
カメラをセットしながら悠一が長岡を呼び、ブライダルと赤ちゃん撮影の違いを伝授し始める。
「とにかく、赤ちゃんは時間との勝負だから」
と、悠一。
「あと、おばあちゃんとの勝負ね」
と、舞が赤ちゃんを座らせる椅子をバック紙の真ん中でライトが当たる定位置に置きながら付け足した。
「おばあちゃん?」
「そ。おばあちゃんがついて来たら、うるさいのよ。泣いててもいいから早く撮れって言ったり、そのくせ出来上がり見て笑ってないって文句言ったり」
「なるほど〜」
「そのためにも、赤ちゃんが来たらすぐ撮れるように準備は大切だし、赤ちゃんが来てからも着物に着せ替えるんだったら、その手際も良くないといけない」
悠一は舞の持ってきた椅子にピントを合わせながら秀人にそう言った。
「ああ、あの着物着てるのって、こっちが着せ替えてるんですか?」
「ああ、舞ちゃんがね」
「ここで貸してる着物の場合は、これを見せて」
舞は受付横に置いてある赤ちゃん用の男女の着物が3枚ずつ掛けてあるハンガーラックを掴む。
「なるべくさっさと選んでもらって。もし、なかなか決まらないようだったら、こっちから『男の子だったら、やっぱり黒にする方が多いですよ』とか、どれか1つに絞れるように助言してあげること」
「なるほど。ここで時間取れないってことですね」
「その通り」
「あと、自前で持ってこられるときに注意しなきゃいけないのが、『仕付け糸』がそのままついてたり、よだれかけなんて、全然封切ってないから、厚紙にしっかり糸で縫い付けてあったりするから、はさみはすぐ取り出せるようにしとかないとね」
「なるほど〜。勉強になりますっ」
「さ、そろそろ来られるかな」
悠一がスタジオの掛け時計を見上げると、時間は9時55分になっていた。