好きって言っちゃえ

「それより、舞さんはまだ来てないんですか?」

航がテーブル席の方を見ながら美雪に聞いた。

「あ、もう来てるわよ」

「え?どこに?」

光俊も一緒になってテーブル席の方を覗き込む。

「どこっすか?」

「3人同じテーブルだから案内するわよ。どうぞ、こちらに」

美雪に連れられて、光俊と航は一番奥のテーブルにやって来た。そのテーブルにはえんじ色のワンピースを着た女性が1人、後ろ向きに座っていた。

「まさか…?」

テーブルが近づいてきてターゲットが一人に絞られて思わず光俊の口から言葉がついて出た。

「舞、二人来たよ」

美雪に声をかけら座っていた女性が振り返る。それは、まぎれもなく、いつもとは違い、マスカラまでしっかり付けて別人と化した舞だった。が、

「あ、お疲れ」

口を開くと、いつもの舞だった。

「…いやいやいや、それはないっしょ」

舞に注意しながら、光俊は19番の席に座り、舞を挟んで航は20番の席に座った。

「なにが?」

「折角、馬子にも衣裳なんっすから、もうちょっとかわいい感じで話してくださいよ。なぁ」

「ええ」

光俊の呼びかけに大きく頷く航。

「馬子にもって…」

「ふふっ。いいじゃないの。かわいいって褒められてるんだから。今日は、誰かに見初められちゃうかもよ」

「もう、何言ってんのよ、美雪まで」

「ま、とにかく、3人とも、結婚する意志はあるような顔だけはしておいてね」

美雪は小声で念を押すと入口の方へ戻って行った。















< 97 / 209 >

この作品をシェア

pagetop