好きって言っちゃえ
「それより、舞さんはまだ来てないんですか?」
航がテーブル席の方を見ながら美雪に聞いた。
「あ、もう来てるわよ」
「え?どこに?」
光俊も一緒になってテーブル席の方を覗き込む。
「どこっすか?」
「3人同じテーブルだから案内するわよ。どうぞ、こちらに」
美雪に連れられて、光俊と航は一番奥のテーブルにやって来た。そのテーブルにはえんじ色のワンピースを着た女性が1人、後ろ向きに座っていた。
「まさか…?」
テーブルが近づいてきてターゲットが一人に絞られて思わず光俊の口から言葉がついて出た。
「舞、二人来たよ」
美雪に声をかけら座っていた女性が振り返る。それは、まぎれもなく、いつもとは違い、マスカラまでしっかり付けて別人と化した舞だった。が、
「あ、お疲れ」
口を開くと、いつもの舞だった。
「…いやいやいや、それはないっしょ」
舞に注意しながら、光俊は19番の席に座り、舞を挟んで航は20番の席に座った。
「なにが?」
「折角、馬子にも衣裳なんっすから、もうちょっとかわいい感じで話してくださいよ。なぁ」
「ええ」
光俊の呼びかけに大きく頷く航。
「馬子にもって…」
「ふふっ。いいじゃないの。かわいいって褒められてるんだから。今日は、誰かに見初められちゃうかもよ」
「もう、何言ってんのよ、美雪まで」
「ま、とにかく、3人とも、結婚する意志はあるような顔だけはしておいてね」
美雪は小声で念を押すと入口の方へ戻って行った。