ビタージャムメモリ
あえて包装を省いたそれは、先生がためらいがちにシールを剥がしただけで、すぐに見ることができた。
グレーの、柔らかいマフラー。
先生はまだきょとんとしている。
「すごく…僕好みだけど、もらう理由が…」
「差し上げるというより、返却なんです、あの、覚えてませんか、大学で教えてらした時、研究室に押しかけた学生がいたでしょう」
「え?」
決めてたの。
もし偶然、ふたりきりになることがあったら、言おうって。
「…先生に、おかしな無理を言って、まだ子供だからダメと言われて、追い返された学生がいたでしょう。その子にマフラーを貸したでしょう」
バッグを握りしめた。
何を言われているのかさっぱりな様子だった先生の目が、やがて一瞬揺れて、はっきりと見開かれる。
「あれが私です」
「え…」
「すみません、お借りしたマフラーを、どこへやったか失念してしまって、新しくご用意したんです、あの、もらってください」
決めていたのは、ここまで。
いつ発火するかわからない爆弾を抱えているよりは、もう自分から明かしてしまおうと。
笑って済ませてもらえたらありがたいし、距離を置かれるならそれも仕方ない。
だけど隠し持っているのだけはもう嫌で、区切りをつけようと。
でもどうしてか、それだけじゃ止まらなかった。
あ、と思った時には、口が勝手に動いていた。
「…私、変わってないんです」
「変わってないって…」
「今も、あの時と、同じ気持ちです、先生のこと…」
顔を見ることはできなかった。
私は真っ赤で、振り絞るように必死な声を出していて、泣きそうで。
きっとまさにあの時と、同じ状態。
先生は何も言わずに、私の次の言葉を待っていた。
「先生のこと…」
グレーの、柔らかいマフラー。
先生はまだきょとんとしている。
「すごく…僕好みだけど、もらう理由が…」
「差し上げるというより、返却なんです、あの、覚えてませんか、大学で教えてらした時、研究室に押しかけた学生がいたでしょう」
「え?」
決めてたの。
もし偶然、ふたりきりになることがあったら、言おうって。
「…先生に、おかしな無理を言って、まだ子供だからダメと言われて、追い返された学生がいたでしょう。その子にマフラーを貸したでしょう」
バッグを握りしめた。
何を言われているのかさっぱりな様子だった先生の目が、やがて一瞬揺れて、はっきりと見開かれる。
「あれが私です」
「え…」
「すみません、お借りしたマフラーを、どこへやったか失念してしまって、新しくご用意したんです、あの、もらってください」
決めていたのは、ここまで。
いつ発火するかわからない爆弾を抱えているよりは、もう自分から明かしてしまおうと。
笑って済ませてもらえたらありがたいし、距離を置かれるならそれも仕方ない。
だけど隠し持っているのだけはもう嫌で、区切りをつけようと。
でもどうしてか、それだけじゃ止まらなかった。
あ、と思った時には、口が勝手に動いていた。
「…私、変わってないんです」
「変わってないって…」
「今も、あの時と、同じ気持ちです、先生のこと…」
顔を見ることはできなかった。
私は真っ赤で、振り絞るように必死な声を出していて、泣きそうで。
きっとまさにあの時と、同じ状態。
先生は何も言わずに、私の次の言葉を待っていた。
「先生のこと…」