ビタージャムメモリ
赤面した。

別に先生に会いたいわけじゃなくて、むしろその逆なんだけど。

そんなに露骨だっただろうか。



「さっきの会議、技術や生産系の用語ばっかりで、わからないところも多かったでしょう、困ったら言ってくださいね、なんでもお教えしますんで」

「ありがとうございます、助かります」

「時間をとらせて申し訳ないです、でもこれ、眞下さんのたっての希望なんですよ、開発はPR部門と二人三脚すべきだって」



先生の…。



「できたら香野さんを、という話もしてたんで、ご本人が参加してくれて、喜んでると思いますよ、これからもよろしくお願いしますね」

「こ、こちらこそです」

「年が明けたら、定例会を隔週から週一にしようと思ってますので、負担のない範囲で、ぜひ」



じゃあ、と笑って柏さんはエレベーターの方へ歩いていった。

来月から、毎週…。

広報部として、こんなふうに開発に絡めてもらえることを心から嬉しく思う反面、先生との接触がまったく減らないことを知り、愕然とした。

私、こんなタイミングで言うべきじゃなかった。

これじゃ先生だって、やりづらいばかりだ。


でも、ならどうして先生は、会議に私を呼んだりしたんだろう。

気にも留めていないってことなんだろうか。


"できたら香野さんを"なんて、どんな理由からだろうと嬉しい。

でも、今ですか? とも思ってしまう。


こんなふうにあれこれ悩んでいるのは、私だけなんだろうか。

先生は、何を考えているんだろう。

なんだかもう、よくわからない…。



 * * *


「ん?」



冬休みも目前に迫った祝日、起きたら歩くんから携帯にメッセージが入っていた。

送信は深夜だ。

根が夜型なんだろうなあと思いながら、何かの案内状の文言をコピーしたような、長々としたそれを読む。

なるべく早く返事をくれとのことなので、電話をした。



「クリスマスコンサートって、歩くんが弾くの?」

『だよ、チャリティコンサートなんだけど、チケット1枚余っちゃって。どうせ今日、暇だろ?』



暇ですよ、ごめんなさいね。

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