ビタージャムメモリ
「…た、大変、失礼しました…」
肝を冷やして青くなる。
どうか、5年前と、結びつきませんように。
先生は、少し目を丸くして私を見下ろすと。
「誰かと間違えましたか」
そう言って、おかしそうに笑った。
見とれてしまったのを、気づかれただろうか。
だって、笑顔があんまり優しくて。
眼鏡越しの瞳が、柔らかくて。
じゃあ、といたって普通に別れた後も、私はふわふわと、浮かびながら歩いていた。
先生。
どうか私のことを、思い出さないでください。
「でも弓生って大学の頃から、あんまり変わってないよね」
「不吉なこと言わないで」
「髪型も同じだし」
違うもん。
当時はセミロングで、今は長めのボブですし。
「それ、つまりほぼ同じってことだわ」
「印象変えたら、記憶がよみがえる危険が減る?」
「あるいは。貸してみ」
すっかり行きつけになったクラブの一角で、スツールに腰かけた私の背後に早絵が回った。
くるんとスツールを回して、全面が鏡になっている壁のほうに向ける。
「こんな感じは?」
「髪が多いから、短いのはちょっと」
後ろから私の髪を、あれこれいじる。
ショートボブ、前髪アップ、ゆる三つ編み。