ビタージャムメモリ
「どう?」
「丸い凡顔には、無難なスタイルが一番だって痛感してる」
「そーお? いろいろ似合うと思うけどな」
言いながら、伸びてきた私の前髪を、真ん中で分ける。
おっ。
「ほら可愛い」
「ほんとだ、大人っぽい」
思わず、鏡を覗き込んでしまった。
うん、これは、ありかも。
「イメージ変わる?」
「変わる変わる」
ほんと? とその気になってきた時、口笛の音がした。
鏡の中で、男の人が二人、こちらを見て笑ってる。
「サロンごっこ?」
「かーわいい、友達同士?」
無視無視、と早絵が目で合図してきた。
公の場でノースリーブを着る男にまともなのはいない、という早絵の持論は、乱暴だけど、おおむね賛同に値する。
というわけで私たちは相手にしないよう努めたのだけど、その人たちはしつこかった。
執拗にまとわりついて、特に一人が早絵を気に入ったらしく、肩をつかんで離さない。
「早絵…」
「はい邪魔しない。俺らはあっち行こ」
「きゃあ!」
もう一人のほうに、スツールから軽々と抱え上げられて、使われていないバーカウンターに座らされた。
体温と、むっとする甘い香りの名残が身体中にまとわりつく。
嫌だ、と思うそばからねっとりと熱い手が腰に絡んだ。
「下ろしてください」
「なんで、いい眺めだよ?」
にやりと笑う男の人の、ちょうど目の前に私の胸がある。
あからさまな視線に、気持ち悪さと恐怖が襲ってきた。