ビタージャムメモリ
「気をつけて」
あの日の再現みたい。
ぼんやりと見上げる私の首にそれを巻きながら、煙草をくわえた先生は、ちょっと眉をひそめた。
「どうも心配だな。家に着いたら、無事だって連絡をくれる?」
「はいっ」
「俺の言ってること、わかってる?」
はいっ、とそればかり返す私に、とうとう先生は吹き出し、おかしそうに笑いながら、マフラーを軽く叩いた。
「今度は、返してね」
ふわふわ、ふわふわ。
足が地面から浮いているような感覚の中、私はどうやったものか、自宅の最寄り駅までたどりついた。
全身から蒸気が出ている、気がする。
「弓生っ、おい」
家までの道を歩いていたら、後ろから肩を掴まれた。
歩くんが白い息を吐いて、追いついてきたところだった。
「何ぼけっとしてんだよ、さっきから呼んでんのに」
「あっ、歩くんも今帰り? お帰り」
どうやらコンビニにいたところを、私を見かけて出てきたらしい。
手にはバイオリンのケースを持っている。
「ただいま…って、弓生、遅くね? 今までうちにいたの? 巧兄帰ってきちゃっただろ…てか煙草くせえな、お前!」
「えっ!」
「…なんで口押さえんの?」
吸ってきたの? と怪訝そうに覗き込まれて、私は首から上がみるみる赤くなっていくのを自覚した。
あぜんとした顔でそれを見ていた歩くんが、はっと察したように目を見開く。
「…あ! お前、まさか、巧兄と…」
「やめて、言わないで!」
「うわっ、うわっ…マジで!?」
やめてー、と往来で叫びながら、燃えそうな顔を両手で隠した。
顔の赤みは歩くんにまで伝染し、彼は彼で動揺と興奮を隠せずにいる。