ビタージャムメモリ
言われてみれば、身体が少し楽になっている気がする。

シャワーでも浴びてこようかなと思っていると、歩くんがふと枕元に目をやって、それから突然、頬にキスをしてきた。

えっ?



「何?」

「誕生日おめでと。バトンタッチだな」



ベッドに頬杖をついて、にこっと笑う。

枕元を見れば、時計が0時過ぎを指している。

その時、じわじわと記憶の底からよみがえってくるものがあった。



「ああっ!」

「うわ、なんだ」

「ごめん、私、先生から預かってるものがあるの」

「おい、そんな勢いで起き上がったら転ぶぜ、俺が取ってやるよ、何、バッグ?」



言葉のとおり、ベッドを飛び出そうとして途中で力尽き、突っ伏したところにバッグを渡してくれる。

中から預かった小箱を出した。



「これ、先生から。今気がついたんだけど、たぶん誕生日プレゼントだと思う」

「えっ」

「ごめんね、日付越えちゃった、ごめん…」

「泣くほどのことかよ、気にすんな、サンキュ」



情けない、私。

自分のことで浮かれて、大事な日なのを忘れちゃうなんて。

歩くんは慰めるように私の頭をなでてから、窓から差し込む明るさを頼りに箱を開けた。

シンプルなリボンで留められていただけの包装を解くと、銀色の、変わった形の優雅なフォークみたいなものが顔を出す。

うわ、とつぶやいた歩くんは、そっと箱から取り出し、薄明かりの中、柔らかく光るそれをためつすがめつした。



「…それ、なあに?」

「楽譜を留めるクリップだよ」

「すごい綺麗だね」

「これ、銀だ。しかもたぶんアンティークだ」



すげえ、としばらく見入ってから、壁際に置いていた楽譜を入れているバッグを引き寄せて、そこに入れる。



「そういや、お前が寝てる間に、お前がちゃんと帰ってるかって巧兄から連絡あった」

「えっ、…あ!」



そうだ、先生に連絡してない!

もう最悪だ、私…。

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