ビタージャムメモリ
「帰りに歩くんに何か買ってこようと思ってたの。それも忘れちゃった…」
「いいって、そんなの」
「でも、せっかく一緒にいるのに。ケーキとか用意したかった…」
「熱あったんだぜ、お前。気持ちだけで嬉しいよ」
サンキュ、と頭を優しく叩いてくれる。
もう泣きたい。
どれだけぼんやりしてたの、私。
「男の子の18歳の誕生日なんて、特別なのに」
「別に普通だろ」
「結婚できる歳になったんだよ!?」
冷静な歩くんは、「する予定ねーし」とあきれるだけだ。
「何か欲しいものない? 明日買いに行こうよ」
「いや、明日は寝てろよ」
「じゃあいつか用意するから。何かない?」
ベッド脇に座り込んだ歩くんは、寝そべっている私と顔の高さがほぼ同じになる。
整った横顔が、少し宙を見つめて考え込んだ後、こちらを見た。
「なんでもいいの?」
「私が用意できるものならね」
「じゃあさ」
にこっと笑い、ベッドに腕を乗せて、私を覗き込む。
「弓生からキスして」
へっ!? と思わず変な声が出た。
「なんでもくれるんだろ?」
「そうだけど」
「じゃ、くれよ」
う…。
こうして間近で見ると、つくづく綺麗な顔立ちだなあ。
こんな子なら、同じ年頃の子だろうが、年上だろうが、誰だって相手してくれるだろうに、なんでよりによって私のなんて。
でも、誕生日なわけだし。
私が言いだしたわけだし…。
「ほっ、ほっぺたでいい…?」
「どもっちゃうんだ」