ビタージャムメモリ
見た目からは想像もできない、雑な物言いに唖然とした。

ここまで失礼だと、腹も立たない。

いや、彼の容姿が大いに影響しているだけかもしれない。

この口の利き方をしていてさえ、下品な感じをまったく受けない、見事な造形の唇と、綺麗な歯。

慎みより興味のほうが勝ち、私は尋ねた。



「アユムくん?」

「ミ」

「え?」

「アユ“ミ”。女みてえとか言ったら殴るぜ」



アユミくんか。



「言わないよ、私も男みたいな名前なの」

「なんつーの?」



漢字も合わせて説明すると、歩くんが同情するように鼻を鳴らした。



「苦労しそうだな」

「いいこともあるよ」

「そ? じゃあ俺、仕事戻るわ。男に声かけられたくねえんなら、もっと硬派なとこ行けよ、ここはヤリ部屋もあるような店だぜ」

「やり…?」



知らねーの? と言って頭上を指差す。



「上に行こうって誘われたら、そういう意味だよ。嫌なら死ぬ気で逃げろよな。俺らは見て見ぬふりだ」

「そんな、間違いとか起こったら、どうするの」

「店からすりゃ、金づるは野郎の方なんだから、女なんかどうでもいーよ。男にたかってばっかのくせに、被害者ぶんな」



ぐさっと来た。

たかったつもりはないけど、奢ってもらいながら、見返りを求められたら知らんぷりしよう、なんて、確かにたかりに近いかもしれない。

歩くんが顔を傾けると、真っ黒の髪が揺れて、左耳の上のほうで銀のピアスがきらりと光る。



「弓生みたいなのは、俺色に染めてやりたいとか思うアホに狙われやすいぜ、気をつけろよ」

「私みたいなのって」

「こんなところで、こーんなお堅いオフィスファッションしてる女ってこと」



言うなり、ぐいと私のシャツの襟をつかんで、左右に開いた。

スナップ式のボタンが次々外れて、下着まで露になる。

私の悲鳴は、あたりに満ちるクラブサウンドにかき消された。

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