ビタージャムメモリ
梶井さんもショックを受けている。

そりゃそうだ、彼にしてみれば、彼女への想いをまったく信じてもらえていなかったってことだ。

こぼれはじめた涙を拭うかすみさんを、あれこれなだめる梶井さんを見て、歩くんがため息をついた。



「あんた、いい人そうに見えるのに、女見る目ゼロだね」



前に先生も、似たことを言っていた気がする。

梶井さんが恥ずかしそうに、そうかもね、と同意した。



「そうかもねって」

「だけど、どうしようもない気持ちってものもあるんだよ。歩くんもいずれわかるよ」

「それくらい知ってるよ、でも俺は見る目あるし。少なくともあんたよりは」



平然と言いきられて、梶井さんは返す言葉もなく、苦笑した。

かすみさんはいよいよ泣いている。


ねえ歩くん、たぶんお母さんはね、すごく自分に自信のない人。

だから、梶井さんを好きでも、なんの付加価値もなかったら、自分なんて選んでもらえないって思い込んじゃったんだね。

あんなに尊大で不遜な態度なのに、おかしな話。

自分なんかが歩くんを育てないほうがいいって、そう思ったのもたぶん同じ理由から来る、本心で。

はた目にはわからない葛藤が、彼女なりにあったのも想像できる。



「歩くん、よければなんだけど、これから、その、たまに誘っていいかな。飲み…は未成年だから、食事でも」



かすみさんの肩を抱いて、梶井さんが遠慮がちに申し出た。

歩くんは「俺は別にかまわないけど」と先生を見上げる。



「いい?」

「お前の好きにしたらいい」



うなずいて、「もう18歳だもんな」と微笑みかける先生に、くすぐったそうに笑い返す様子は、まだまだ子供だ。



「じゃ、そういうことで」

「ありがとう、声をかけるよ」

「私は仲間はずれなの?」

「うっせーな、てめーが来たら俺は帰る」

「かすみさん、そこは時間が必要だよ、僕が懸け橋になるから」


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