ビタージャムメモリ
「なんだよ、悪くねえの持ってんじゃん」
「のぞき込まないで!」
「お、赤くなった。色白の女は、これがたまんねえよな」
変態!
必死に前をかき合わせようとするも、歩くんは平然と、両手の間を見下ろしている。
たまらずすねを蹴ってやると、いてっと声を上げて、ようやくシャツを離してくれた。
「早く仕事戻ったら」
「また来るよな、弓生」
「だったら何」
来るなって言ったり、来いって言ったり。
私は早絵の恋を応援しているだけで、こういう場所が好きなわけじゃない。
だいたい、どう見てもはたちそこそこのくせに、生意気に人のこと呼び捨てにして。
言ってやりたいことは山ほどあれど、ひとつも声にならない。
「来いよな」
うるさい!
オーダーでにぎわっているカウンターの方へ戻りながら、歩くんは楽しげに笑った。
自力で落ち延びてきた早絵によると、あの男の人たちは“クスリ”をやっていたらしい。
歩くんの言っていた“お客様のような方”というのは、そのことだったのだ。
つまり、そこそこ危なかったというわけだ。
ちゃんとお礼を言わせてもらえなかったな、と改めて考えた。
『はい、今話題になっている技術について、ぜひお話を伺いたく』
「ありがとうございます」
広報部宛てに入ってきた、ライフスタイル誌からの取材依頼に、どんな日程で対応できそうかさっとスケジュールを確認する。
「開発との調整をいたしますので、恐れ入りますが候補日を多めにいただけますと助かります」
『えっ、当方では、広報様にお話を伺えれば充分と考えているのですが』