ビタージャムメモリ
かすみさんたちとの別れ際、梶井さんと並んだところを見比べて、改めて先生が、歩くんの保護者というにはすごく若いんだと感じた。

10歳ほど上の梶井さんと並ぶと、立場こそ対等なものの、外見だけなら上司と部下くらいの印象だったのだ。

先生だって、ここまで歩くんを育てるのに、悩んだり迷ったりしなかったはずがない。



「メシ作んなきゃ」



歩くんが目をこすりながら先生から離れ、料理に戻った。

カウンターの向こうから見守る先生が、感心したように言う。



「お前、よく彼に、ちゃんとお願いできたな」

「待ってほしいっての? そりゃ、本気でそう思ってるんだから、言うよ、あれくらい」

「学校にもかけあったんだろ、進学したいって」

「だって、弓生が言ってたもんな」

「えっ、私?」



パスタをかき混ぜていた私は、なんのことかと手を止めた。

歩くんはフライパン片手に、そーだよ、となぜか偉そうにする。



「頭なんて、下げたところで何も減らねーんだろ」



真理だな、と先生が笑った。








歩くんのいない部屋は、どうにもそっけない。

おかえりと言ってくれる人もいなければ、温かいごはんもない。

一緒にテレビを見る相手もいなくて、電気を消すのは常に自分。



「なかなか寂しいです」

「たまに貸すよ」



翌週は年始一回目のプロジェクト定例会の日だった。

会議室に向かう途中で行き合わせた先生と、そんな話をする。



「歩くん、先生と離れて、いろいろ考えてたんですね」

「子供って少し見ないと、大きくなっててほんと驚く」

「もう18歳ですよ」

「ガキガキ、あんなの」



ふんと笑い飛ばす様子は、また新たな遺恨が彼らの間に芽生えかけているのを感じさせる。

大丈夫かなあ、と心配になった。

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