ビタージャムメモリ
「たいへん申し訳ない! 連絡がどこかで行き違ったようで」
開始時刻を少し過ぎた頃、本社メンバーの中心のひとりである、購買部の男性が頭を下げた。
どうも集まりが悪いので、どうしたのかと連絡したら、ごく一部にのみ今日の休会が告げられていたらしい。
「うちもなんですが、品証も生管も、今日は取引先と賀詞交換会があってドタバタなんですよ」
「なるほど」
「技事の皆さんには、わざわざ来ていただいたのに、本当に申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず」
先生は気を悪くしたふうもなく言う。
来ていた本社の数名は、なーんだ、という体でめいめいのオフィスに戻っていき、後には私と先生のグループだけが残った。
「眞下さん、どうします?」
「俺はこの後、本社で別件があるから、ここで仕事していく」
「じゃあ僕たち、先戻りますね。あ、そうだ香野さん、これ」
「あっ、ありがとうございます!」
柏さんが鞄から取り出したのは、みんなからのメッセージが入ったハガキだ。
うわあ、喜んでもらえますように。
確認したらすぐ投函しよう。
じゃ、と一礼して柏さんたちが去ると、会議室は私と先生だけになる。
すでに手元で仕事を始めていた先生が、ふとキーを打つ手を止め、私を見た。
「この部屋は、使って大丈夫なのかな」
「あっ、そうですよね、確認します」
事業所が違うとサーバも違うため、先生は本社の会議室予約表を見ることができない。
私も持ってきていたPCを開いた。
「大丈夫です、定例会の時間は確保されてます」
「よかった、ありがとう」
「災難でしたね…せっかくいらしたのに」
「まあ、こういうこともあるさ」
私も自分のデスクに戻ろうとPCを閉じかけた時、新着メールが目に入る。
雑誌社さんからの、取材の依頼だった。
発表会に来てくれた雑誌社さんで、先生の話をもっと詳しく聞きたい、とある。