ビタージャムメモリ
そんな感じで、私が口を挟む隙もなく、ふたりはその後も何かというと対立の様相を見せ、平たく言うとずっと口喧嘩をしていた。


──というのが、先週の話。

私はすっかり、先生に対してどんな態度でいればいいのかわからなくなり、先生が何を考えているのかもわからない。

つまり、そこそこ途方に暮れていた。


今もまさに暮れている。

先生と目が合った。

その微笑みの意図って、なんですか。

そんなふうに笑いかけられたら、私。

私…。



「あの、先生、やっぱりですね」

「うん?」



あの、と言葉を探していると、目が泳いでしまう。



「せ、先日、偉そうに、安心してくださいなんて言いましたが、やっぱりその、少しは期待してしまって、もしかしたら勘違いしかねないので」



こんな話題を出したのを、早くも後悔した。

先生、無言だ。

でも、もう限界なんです…。



「あの、ないならないと、仰ってください、ぜひ。そのほうが私も、楽というか、ご迷惑もおかけせずに済むというか」



引き続き無言。



「す、すみません、こんな場所で…」

「今日、仕事の後、空いてる?」

「は、えっ?」



いきなり、なんの話?

よくわからないまま、はい、とうなずいた。

先生はさっきまでとまったく変わらない調子で続ける。



「この後の別件が終わったら直帰するつもりだったんだ。この間と逆のパターンだね」

「はい…」



私の反応を探るみたいに、ちょっと視線をこちらにやって。



「今度こそ、何か食べて帰ろう」



そう微笑んだ。



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