ビタージャムメモリ
「でもね、発表会を開催して、お客様と直接触れ合ったってとこまで含めて、プロジェクト全体がノミネートの対象なんですよ」
「単に技術のみが評価されたんじゃないんです。これって香野さんの功績じゃないすか!」
え…。
本当?
舞い上がっていいものか迷っていると、隣の先生がうなずいた。
「本当だよ、そのうち通達がうちの上から広報部にも行くと思う」
「ノミネートって、誰がするんですか?」
「基本的には自薦なんだけど、今回俺たちは何もしてないから、誰かが推してくれたらしい。他の候補を押さえて、今のところ最有力候補と聞いてる」
「本当ですか…!」
「今、プロジェクトチームのメンバーに広報部を入れるよう、訂正してもらってるんだ。そこが抜けたまま申請されてたらしくて」
「それが通れば、一緒に表彰台に上がれますよ、香野さん!」
うわあ、すごい、すごい。
開発部門でない以上、自分の会社人生の中で、そんな賞にかかわれることすら考えてもみなかったのに。
まさか、受賞側の仲間に入れてもらえるなんて。
柏さんたちは本当に嬉しいらしく、酔いの回った真っ赤な顔でわーいわーいと喜んでいる。
私もすっかり興奮し、飲みかけのグラスで何度も乾杯した。
「先生?」
このダイニングバーはファッションビルの一角にあるので、お手洗いはお店の外に行く必要がある。
ややおぼつかない足取りでそこを目指し、廊下に出たところでベンチに人影を見つけた。
向こうも私に気づき、ちょいちょいと手招きをする。
近づいたところ、仕事の電話中の様子だったので、先にお手洗いを済ませてこようとしたら、腕を引かれてベンチに尻もちをついた。
「痛!」
「あ、ごめん」
力が余ったらしい先生が、携帯を胸ポケットにしまう。
「…先生、酔ってます?」
「まさか。危なっかしいのはそっちでしょ」
はい、飲みすぎました…。
だって柏さんたち、飲ませ上手なんだもん。