ビタージャムメモリ
あっ、そういうことだったのか。
あの、と先方が言葉を継いだ。
『もちろん、開発の方をご紹介いただけるのでしたら、たいへんありがたいです、でも我々に理解できるかどうか』
「それはご心配無用です、開発の中心メンバーから説明させていただきますので、ぜひ」
『本当ですか、それでしたら』
まるで私が、強靭に先生のインタビューをお薦めしたような形になってしまった。
相手の連絡先を聞いて、電話を切る。
すぐに先生のアポを取らせてもらおう。
そう思ってメールの新規作成画面を開いたものの、なかなか書き出しが浮かばず。
眞下様、と打ったきり、考え込んでしまう。
いつもお世話になっております、なんて今さら堅苦しいだろうか。
それともそう思うのは私のほうだけで、まだまだそのくらいの距離だろうか。
先日はありがとうございました、ならどうだろう。
でも本社で偶然会ったことを向こうが覚えていなかったら、いつの先日だ、と悩ませてしまうかもしれない。
いっそ電話をしようか。
とんでもない。
「また氷の眞下で悩んでるの?」
私が、連絡を取りたくなくて苦悩しているように見えたらしく、先輩が同情してくれた。
「いえ、大丈夫です」
むしろ逆で。
連絡を取りたくて、もしかしたらそのためもあって、あんなに熱心に開発者に会うことを薦めたのかもしれなくて。
そんな自分の行動を正当化するのに忙しくて。
こんな気持ちのままメールしたら、この浮かれぶりが文面に出てしまいそうで、怖くて。
それで悩んでいるんです。
【対応させていただきます】
考え抜いた果てに、えらく事務的な文面になったメールには、調子を合わせたかのようなそっけない返信が届いた。
いや、でも先生からのメールは、いつもこんなだ。
会いたい。
会いたいです、先生。
記憶の中で、この間の笑顔がリフレインする。
勝手にそれに背中を押されたような気分になり、よく考える前に返信を打っていた。