ビタージャムメモリ

「先生になら、そんな話もするんですね」

「うん、あいつは酔うと口が軽くなるから、飲ませ、て…」

「えっ」



飲ませて?

聞き捨てならないことを耳にした気がして、思わず聞き返すと、あらぬ方向を見て言葉を切った先生が、「まあそれはいいんだ」と勝手に終了させた。



「で、俺はちょっと気になって、香野さんのどこがそんなにいいんだと…ごめん、語弊があった、違うよ」



打撃を受けた気分で、暗くうつむく私に、先生が慌てて弁解する。

いえ、別にいいんです、それが先生の本音でも…。



「言葉の綾だよ、最後まで聞いて」

「はい…」

「どこをそんなに気に入ったのかと聞いたらね、『巧兄を好きな時点で、スタートからもうポイント入ってる』と」

「は…」

「土台があるから、あとは増えるだけなんだってさ」



わあ…。

歩くん、そんなことを…。



「あ、これ、そんなに恥ずかしがるような話だった?」

「あの、そうですね、は、恥ずかしいです、嬉しいですけど」



私の顔が真っ赤なのを見てとり、先生が驚いた。

それはもう、先生の口から聞くと、なおさら恥ずかしいです。

先生は、ぺたぺたと顔のあちこちを押さえる私をじっと見ている。



「それを聞いてね」

「はい」

「お互い、似たようなこと感じてるなと思ったんだよね」



はい、と上の空で返事をしてから、あれっと思った。

額を押さえながら、懸命に頭を働かせる。

似たようなこと…。

目が合うと、先生が、にやっと笑った。



「歩に触発されたみたいで癪だから、これ以上は言わないよ」



えええ…。

あとは自分で考えなさい、って感じに、先生はふいと視線を外してしまう。

それは…ひどい。

これじゃあ私、どうしていいかわからない。

< 190 / 223 >

この作品をシェア

pagetop