ビタージャムメモリ
「先生になら、そんな話もするんですね」
「うん、あいつは酔うと口が軽くなるから、飲ませ、て…」
「えっ」
飲ませて?
聞き捨てならないことを耳にした気がして、思わず聞き返すと、あらぬ方向を見て言葉を切った先生が、「まあそれはいいんだ」と勝手に終了させた。
「で、俺はちょっと気になって、香野さんのどこがそんなにいいんだと…ごめん、語弊があった、違うよ」
打撃を受けた気分で、暗くうつむく私に、先生が慌てて弁解する。
いえ、別にいいんです、それが先生の本音でも…。
「言葉の綾だよ、最後まで聞いて」
「はい…」
「どこをそんなに気に入ったのかと聞いたらね、『巧兄を好きな時点で、スタートからもうポイント入ってる』と」
「は…」
「土台があるから、あとは増えるだけなんだってさ」
わあ…。
歩くん、そんなことを…。
「あ、これ、そんなに恥ずかしがるような話だった?」
「あの、そうですね、は、恥ずかしいです、嬉しいですけど」
私の顔が真っ赤なのを見てとり、先生が驚いた。
それはもう、先生の口から聞くと、なおさら恥ずかしいです。
先生は、ぺたぺたと顔のあちこちを押さえる私をじっと見ている。
「それを聞いてね」
「はい」
「お互い、似たようなこと感じてるなと思ったんだよね」
はい、と上の空で返事をしてから、あれっと思った。
額を押さえながら、懸命に頭を働かせる。
似たようなこと…。
目が合うと、先生が、にやっと笑った。
「歩に触発されたみたいで癪だから、これ以上は言わないよ」
えええ…。
あとは自分で考えなさい、って感じに、先生はふいと視線を外してしまう。
それは…ひどい。
これじゃあ私、どうしていいかわからない。