ビタージャムメモリ
もう10年近く前、会社が模索していた新事業の要として、白羽の矢が立ったのが電子技術だったらしい。

なんでもいいから儲けになる商品を探せ、という無茶な使命を負ったグループが作られ、さて誰がそこに入るか、ということになった。



「それで、推薦してやるから行ってこいと声をかけた」

「どうして眞下さんを?」

「他にいなかったからさ。新部署を作るほどに、会社は当時の商品ラインナップに限界を感じてたんだ。それを打ち破るには、相応の人材がいる」



そういういきさつだったのか。

とはいえあくまで試み的な部署だったため、会社の状況次第で冷遇されたり開発費を取り上げられたり、理不尽な思いもたくさんしたらしい。

先生も懐かしそうに、口元を微笑ませて聞いている。



「当時からこいつは可愛げのない奴でね。声をかけた時、なんて言ったと思う」

「なんて仰ったんですか?」

「『僕でなければならないのなら、どこへでも行きますよ』ってさ。まだ院を出たての、ほんの若造がだよ!」

「出たてってことないでしょう、ちゃんと営業を一年やって、開発に配属された後ですよ」



さすがに文句をつけた先生に、うるさい、と吠える。

あ、とその時思い出した。

発表会の実施が急に決まった時、執行役員の中に、応援してくれている人がいると先生が言っていた、あれが比留間さんだ。



「ところで、先日は助かりました」

「元生管の奴か、どうだった、役に立ったか」

「まさに今しがた」



先生が声をひそめて、満足そうに微笑む。

元生管の人…。

あっ、もしかして。



「…さっきの試算、眞下さんたちがしたんじゃないんですね」

「俺たちにあんなの、できるわけないよ」



うっわあ。

何が「我々は素人です」なのか。

バリバリのその道のプロを使ったんじゃないか。

定例会に出ていた生管の人は、持ち帰ったデータを精査して、その正確さに度肝を抜かれるだろう。

今後、どんなでまかせも先生たちには通用しないのだと思い知り、これまで並べた嘘を思い返して肝を冷やすはずだ。

先生、悪いなあー。

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