ビタージャムメモリ
「お前なんか、俺をかばって巧兄の心証悪くしてんじゃん。そんな奴に絶対無理」
「要領悪いって言われてるみたいで、納得いかないんだけど」
「要領悪いって言ってんだよ。あのな、巧兄に気に入られるために俺を懐柔しようとする女だって、いっぱいいたんだぜ」
「!!」
その手があった…!
驚愕する私に、ほらな、と歩くんが呆れる。
「今頃気づいてるようじゃ、適性ないんだって」
「私って、要領悪いの…?」
「ま、バカのつく正直ではあるよな」
「う…」
「いいじゃん別に、そういうの、俺は好きだよ」
にこっと笑った顔が、私の反応を見て、にやにやと感じの悪い笑みに変わっていく。
なんだよー、と歩くんは手を伸ばして、私の頭をなでた。
「目泳いじゃってんの、かっわいいなあ、弓生」
ほっといてよ、とコーヒーカップに向かって呟いても、効かない。
歩くんはそんな私を楽しげに眺めながら。
「巧兄も、きっと好きだぜ、そういうの」
嬉しそうにそんなことを言うので、反論もできなくなった。
* * *
「先月頃から急に、この製品について情報が欲しいとお客様から声が届くようになったんですよ。発表会の仕掛けが効いてきたんでしょうね」
「そこまで計画性の高いものじゃなかったんですけど」
「ブームには偶然の作用もつきものですよ、商品化については、未定としておいたほうがいいですか?」
「計画中と書いていただいて問題ありません。時期は濁していただけると」
「わかりました」
雑誌社の女性記者さんが、ボイスレコーダーのスイッチを切って、先生のほうを見た。
「ありがとうございました、長時間」
「いえ、こちらこそ」