ビタージャムメモリ
数字を全部入力する前に、画面は親切にも、番号の主の名前を教えてくれていた。
“巧(たくみ)先生”
脳が一瞬、記憶を探った。
いや、探る“ふり”をした。
探るまでもなく、手を伸ばせばさわれそうな場所に、その記憶はあるというのに。
手が震えてきた。
一応、見えないくらいには地中深く、埋めたつもりでいたんだけど。
もしかしたら、上に何か建てるとかして、永遠に葬ることもできるんじゃないかと、思ってたんだけど。
残念ながら、人の記憶はそんな甘いものじゃないらしく。
目を向けたが最後、待ってましたとばかりに噴き出して、私の足元を埋め尽くした。
若かりし、十代の最後の冬の。
青くて苦くて酸っぱくて。
痛い、痛い記憶。
「取材、来週? 俺も顔知らないから、見てみたいなあ、どんな感じかなあ」
先輩がキーボードを叩きながら楽しそうに言う。
かっこいいですよ、と心の中で返事をした。
もし、この眞下さんが、本当に。
私の知っている巧先生なら、ですが。
「眞下って、ヤマシタのこと?」
いたね、そういえば、と高校時代からの友人、的場早絵(まとばさえ)が首をひねった。
同じ大学を出た後、偶然にも職場が同じブロックにあるという私たちは、よくこうして、帰りがけに夕食をとる。
「そういえば、なんて。あんなに人気だったのに」
「あたし、そんなマニアックな講義とってなかったもん」
「人間工学の基礎だよ、私たち文系学科にも開放されてた講座で、わかりやすかったよ」
「なんでそんな変な講義、出てたの」
“巧(たくみ)先生”
脳が一瞬、記憶を探った。
いや、探る“ふり”をした。
探るまでもなく、手を伸ばせばさわれそうな場所に、その記憶はあるというのに。
手が震えてきた。
一応、見えないくらいには地中深く、埋めたつもりでいたんだけど。
もしかしたら、上に何か建てるとかして、永遠に葬ることもできるんじゃないかと、思ってたんだけど。
残念ながら、人の記憶はそんな甘いものじゃないらしく。
目を向けたが最後、待ってましたとばかりに噴き出して、私の足元を埋め尽くした。
若かりし、十代の最後の冬の。
青くて苦くて酸っぱくて。
痛い、痛い記憶。
「取材、来週? 俺も顔知らないから、見てみたいなあ、どんな感じかなあ」
先輩がキーボードを叩きながら楽しそうに言う。
かっこいいですよ、と心の中で返事をした。
もし、この眞下さんが、本当に。
私の知っている巧先生なら、ですが。
「眞下って、ヤマシタのこと?」
いたね、そういえば、と高校時代からの友人、的場早絵(まとばさえ)が首をひねった。
同じ大学を出た後、偶然にも職場が同じブロックにあるという私たちは、よくこうして、帰りがけに夕食をとる。
「そういえば、なんて。あんなに人気だったのに」
「あたし、そんなマニアックな講義とってなかったもん」
「人間工学の基礎だよ、私たち文系学科にも開放されてた講座で、わかりやすかったよ」
「なんでそんな変な講義、出てたの」