ビタージャムメモリ
お茶を飲みながら、先生がきっぱりと言った。

そうか…。

私としては、それはむしろ心強くもあるんだけど、先生からしたら、身内の目にさらされるのはそりゃ、嫌だろう。



「ドライブがてら、おいしいものでも食べに行こうか」

「はい」

「今週末でいい?」



はい! と意気込んだ返事は部屋中に響き、笑われた。





週末は晴天だった。

何を着て行くか、こんなに悩んだのは人生初ってくらい検討し、結局無難なニットとスカートに落ち着いた私は、着いたよという連絡をもらって家を出た。

マンションの前に横づけされた、青みがかったシルバーの車体。

その中には、なんでか人影がふたつあった。



「絶対デートだと思ったよ、俺の勘をなめんなよ」



憮然とした様子で高速を走らせる先生に対し、歩くんは、追いやられた後部座席で携帯をいじり、ご機嫌でBGMを選んでいる。

オーディオから流れる曲が、くるくる変わる。



「いい加減決めろ、うるさい」

「気分に合うの、欲しいじゃん」

「俺はそもそも音楽が合うような気分じゃない」

「いい天気なのに、もったいない」

「お前が言うな!」



ああ…。

仲裁に入ったものか迷う。



「行き先どこなの?」

「うるさい」

「次のサービスエリアで休憩しようぜ」



残念ながら、その提案は妥当だと判断せざるを得ず、先生は不本意そうに、SAの表示が出たところで左車線に車を入れた。



「ごめん、置いてこられなくて」

「いえ、私はまったく」



ドライブ日和とはいえ、半端な時間帯のためか、大型のSAは比較的空いている。

フードコートに駆けていった歩くんの背中を見ながら、先生が嘆息した。

さりげなく家を出てきたはずが、駐車場に行ったら、なぜか歩くんが先回りしていたらしい。

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