ビタージャムメモリ
予算を立てた時から、社内外の状況は大きく変わってる。

なのに予算内のことしかできないなんて、おかしい。

やるべきことをしないなんて、おかしい。



「そもそも、開発の負荷も大きいでしょ、やってくれるとは思えないけどなあ」

「いえ、開発のほうは…」



言っていて、ぱっと顔が熱くなったのを感じた。



「あの、下話だけもうしてありまして、実現する時には全面的に協力していただけると」

「あら、そうなんだ」



懸念していた障害が、一つは杞憂だったことを知って気が軽くなったのか、部長の声が明るくなる。

貸して、と企画書を受け取ってもくれ、でも今のところはそれまでのようだったので、私は席に戻った。





「というわけで、残念ながら部としてはあまり積極的でなく」



なるほど、と廊下を歩きながら、巧先生はうなずいた。



「あの、でもなんとか実現させますから。今、他業種の広報部門の方にいろいろヒアリングをさせてもらったりしてまして」

「それは、勉強のためにということ?」

「はい、この会社は専門機器メーカーだからと、広告やPRは不要という意識が根強くて。確かにこれまではそうでしたけど、でももう違うと」



力説する私を、気づけば先生が、足を止めて振り返っていた。

握りこぶしまでつくっていた私は、我に返る。



「…すみません、実現させなきゃ、説得力ないですよね」

「あ、いや、そういうことでなく」



プロジェクトの定例会に向かうところだった先生は、無意識にか顎を触りながら、ふと考え込んだように見えた。

こぢんまりとしてはいるものの、自社ビルであることが密かに社員の誇りである本社の廊下で。

先生は、不思議そうに首をかしげた。



「どうして、そこまで熱心なのかなと」

「え…」

「もちろん、ありがたいんですが。先行きの見えない技術に、本社の方がここまで注力してくださる理由がわからず」


< 25 / 223 >

この作品をシェア

pagetop