ビタージャムメモリ
興味の対象を見つけたら、直進するこの感じは、研究職の人に共通する特徴なんだろうか。

先生に見つめられると、自分が丸裸になった気になる。

一瞬で汗ばんだ手のひらをパンツでこすり、私はどこまで話そうかと逡巡した。



「あの、私、実は父が、メーカーの研究職でして、もうリタイアしてますけど」

「どちらの?」



それはこの会社とも取引のある電子機器メーカーで、先生は、へえと驚きの声をあげた。



「でしたら、一流の技術者ですね」

「どうでしょう、でも幼心に、父の仕事は立派なのに、なぜ誰も知らないんだろうと不満で、それでこういう職に、ついたんです」

「なるほど、それでわかりました」



心から何かに納得したような相槌を打つ。

何がわかったんだろう。



「今、少しお時間、ありますか」

「えっ?」

「技術発表会の計画について、僕の部下たちに話してくれませんか」



ええっ?

拒否する間もなく、先生に背中を押され、大小の会議室の集まるエリアへ向かっていた。



「でも、定例会じゃ」

「まだ早いので、本社側は来ていません。僕の仲間だけが先に着いているはずです」



覚悟も決まらないうちに、中サイズの会議室のドアを、先生が開けてしまった。

中にいた4名の男性社員が、私を見て目を丸くする。

私を巻き込むように足早に室内に入った先生は、スーツの上着を脱ぎながら、彼らに向けて言った。



「まだ時間あるよな? この間ざっと説明した、技術発表会の話をしたい、こちら広報部の」

「あ、あの、香野です、申し訳ありません、突然」

「広報部も一枚岩じゃないらしい、だが俺は実現したらいいと思ってる、みんなも一度、具体的な話を聞いてほしい」



急な話にぽかんとされるかと思いきや、みんな質問ひとつせず、めいめいがノートを取り出した。

中でも一番年長に見える、それでもだいぶ若い一人が、横に並ぶ3人を簡単に紹介してくれたけれど、緊張して全然頭に入らない。

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