ビタージャムメモリ
みんながあんまり私に注目してくれるので、声が震えた。

ホワイトボードに書くほどの内容もないから、話すしかない。

私の言葉で。



「商品に関して、話題にしてくださいねという緩やかな約束のもとに、新聞社やテレビ局、雑誌社を招待するのが、普通の発表会です」

「タレント呼んだりするやつだ」

「そうです、なぜタレントを呼ぶのかと言うと、そのほうが大きく取り上げてもらえるからです。でも私たちにそんなお金はありません」



うん、とみんながうなずく。

私は一人立ったまま、部長は今ごろ読んでくれているだろうかと考えながら、企画書の中身を思い浮かべた。



「私は、お客様を招待したいと思います。この技術があれば救われるかもしれない方に、一番に知らせたいからです」

「新聞社とかは?」

「二部構成を計画しています、メディアには情報を持ち帰って記事化してもらうので、なるべく早めに第一部を開催します」

「二部にお客様ってことですね」



柏さんの言葉にうなずいた。

固い話だけじゃなく、懇親会も設けて、開発メンバーと忌憚ない意見を交わしてほしい。

そしてそれを、自身のネットワークで拡散してほしい。


知らなかったから手に入れられなかった、なんて人が生まれないようにするのが広報の使命だから。

予算がない分は、お客様にも助けてもらうのだ。

一人でも多くの人に、知ってもらうために。


思いの丈を全部喋った。

考え込むように宙を見つめていたメンバーたちは、各人、自分たちの懸念を洗い出すように、ぶつぶつと何か唱えている。

次第にそれは、にぎやかな会話になった。



「これ、プロトタイプも展示したらいいよね、あったっけ」

「ありますね、捨てるところでしたが」

「それ、保管手続き取ろう、きっと今後、開発の流れを説明したりする時に必要になってくるよ」

「お客様の他に、医療の専門家がいるね」

「研究協力してくれた先生に声かける?」



あっという間に、私の範疇を越えてしまった。

どうしたものかと戸惑っていると、そんな彼らを頼もしげに眺めていた先生と、目が合った。

かすかに笑みのようなものを浮かべて、机をコンとペンで叩く。

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