ビタージャムメモリ
「わかったろう、実現したら、大きな一歩だ」
「やりましょうよ、これ」
「そのためにも、商品化を確実なものにする必要がある。技術だけ発表しておきながら、商品にはなりませんじゃ、詐欺だ」
はい、と4名の声が揃った。
「そこは俺たちの責任下でやり抜こう、発表会のほうは、申し訳ないが、香野さん」
「は、はい」
「あなたにかかっている。どうか社内で味方を見つけて、反対意見を突破してください」
はい、という返事は、必要以上に大きくなった。
でも誰も笑ったりしなかった。
「本社、というか間接部門は、技術者を、研究しかできない人間と見なしがちです。売る段になったら関与するな、と」
廊下まで私を送り出してくれた先生が、教えてくれた。
「そんな」
「だからカタログなどに、誤解を招くコピーがあったり、性能限界について書かれていなかったり、そういうことが何度もありました」
「それは…作った側としては、悔しいですよね」
「我々が悔しいのはいいんです。問題は、売り手に都合のいい情報だけを与えられる、お客様のほうだ」
先生は、すらりと背が高いので、声を潜めようとすると、自然と少し、身を屈めることになる。
私と入れ違いにやって来たマーケ部員たちに聞こえないよう、先生は私のほうへわずかに顔を寄せて、静かに喋った。
「今回の話は、仲間のためにもありがたい。エンジニアというものを尊重してくれる、香野さんの姿勢も含めて」
「私、そんな、かえって恐縮です」
真っ赤になっているのを隠したところで、もうごまかしようがないから、開き直るしかなかった。
「承認が取れるといいですね」
「はい、あの、その時には、メインスピーカーとして、眞下さん、壇上に立ってくださいますか」
「僕でなければならないことなら、なんでもやりますよ」