ビタージャムメモリ
偶然にもプロジェクトのひとりと先輩は同期だった。

初顔合わせとなった先輩が「野田(のだ)です」と挨拶した瞬間、向こうの、たぶん若いほうから二番目の方が、あっと声をあげたのだ。

階級ごとの研修で一緒になったという彼らが親しげにしてくれたおかげで、会は一気にフランクな、話しやすい空気になった。



「野田くんたちは、普段お客様に直接コンタクト取ったりは、しないんだっけ」

「しないなあ、キャンペーンなんかで個人情報を取る時はあるけど、その一回きりで破棄だね、基本」

「まあそもそも、今回の技術のターゲットは、既存商品のお客さまとは違うもんね」



うーん、と考え込んでしまう。

開催が突然決まりすぎて、何もかもがドタバタな中、一番時間を要する部分が、やっぱり頓挫してしまった形だ。

みんなと同じように考え込んでいた先生が、ふと顔を上げた。



「香野さん、先日の経済紙のライターさんに協力をお願いすることは、できませんか」

「協力、というと?」

「あそこの新聞は、系列で福祉の情報紙を持っているはずです、そこと繋いでもらうことができれば」



あっ…なるほど!

専門紙さんなら、お客様に呼びかけるルートをきっと持っている。

今回の発表会では、ご招待する側としてしか認識していなかった媒体さんに、運営側としての協力を仰いでしまうのか。

その発想はなかった。



「なるほど、香野さん、連絡先わかる?」

「はい、すぐ打診してみます」

「あと、なんでその媒体さんを選んだのって他の媒体さんに聞かれた時、答えられる正当な理由を見つけておかないとね」



はい、と野田さんのアドバイスにうなずいた。

広報の仕事は、公平性もすごく大事だ。

ひとつの媒体さんと密接におつきあいしすぎると、他の媒体さんから必ずしっぺ返しをくらう。



『なるほど、ご協力できると思います、対外的には、前々から弊社がそういった協力の申し入れをさせていただいてたってことで、いかがですか』

「ありがとうございます、そうしていただけると、本当に助かります!」

『いえいえ、こちらもありがたいです、あっちの媒体も喜ぶと思いますよ、すぐに連絡させますので』


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