ビタージャムメモリ
彼の言うとおり、私は仕事しすぎ、真面目すぎなんだろうか。

好きで入った会社だし、がむしゃらにやってきて、趣味と言える趣味もないから、休みの日にも仕事のことばかり考えている。

でもそんなの、当たり前じゃない?

まだ三年目なら、そのくらいして当然じゃない?


ドリンクを片手に、フロアの隅のテーブルに移動した。

そこでも私は、ぼんやりと思考の淵を漂っていた。


歩くんがキスした手のひらが、ほわほわと熱い。

あんなおふざけに心を揺らされるなんて、私、疲れてるのかな。

いろいろ気にしすぎなのかな…。


ドリンクがあまりに飲みやすかったので、すぐに空にしてしまうと、何も言っていないのにさっきのバーテンさんが同じものを持ってきてくれた。

慌ててお財布を探った私を手で制して、「歩から頼まれてるから」とにこっと笑ってカウンターに戻っていく。

当の歩くんは、忙しそうにフロア内を歩き回り、時折私と目が合うと、さりげなく微笑んでくれた。


おかしいの。

この夜の、この後のことを、私はまったく覚えていない。





喉の渇きで目を覚ました。

トイレにも行きたい。

頭の中がもやがかかったように霞んで、かすかに痛む。


覚えのあるこの感覚。

完全なる飲みすぎだ。


私は身体を起こして、ふと慣れない肌触りを不審に思った。

知らない毛布、知らないシーツ。

知らないベッド。

…知らない部屋。


窓からカーテン越しに光が差し込んでいる。

今がいったい何時なのか、見当がつかない。


やけに胸のあたりがスカスカして、自分がキャミソール一枚であることを知った。

下半身も下着だけ。

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