ビタージャムメモリ
07.波乱
『退屈で死にそう』
「バイトはどうなったの?」
『いきなり抜けるのも迷惑だし、日付変わる前に帰るって約束で、こないだのとこだけ続けさせてくれてる』
「いつものクラブは?」
『辞めた。あっちは俺、歳ごまかしてたし、そういうの巧兄、一番嫌いだからさ…』
「じゃあ、もう行っても会えないんだ…」
ベッドに寝転がって、そんなつぶやきを漏らすと、電話の向こうから忍び笑いが聞こえてきた。
『寂しそうな声出すなよ』
「出してないよ」
『赤くなってんだろ』
なってる。
誰も見ていないけど、ほてった頬を手で隠して、もう寝るからと伝えた。
『俺も寝よ。あ、タトゥーもお前じゃないし、やってないってちゃんと説明したからな』
「…先生、何か言ってた?」
『そうか、ってだけ』
「そう…」
『クッキーうまかった、サンキュ、巧兄にも食わせようとしたんだけどさ、俺宛てだからっつって食おうとしねーの、堅物め』
「先生らしいね」
『また作れよな、俺甘いの好き。じゃ、おやすみ』
おやすみ、と返す前に通話は切れていた。
とりあえず、暇で暇で仕方ないと愚痴をこぼしっぱなしではあったものの、歩くんが元気そうで安心した。
巧先生。
私、先生に知ってほしいことがたくさんあります。
聞きたいこともたくさんあります。
でもどんな顔をして会えばいいのかわかりません。
「ついにアポとれたよー、粘り勝ち」
「本当ですか!」
週の明けた月曜日の朝、陽気に受話器を振ってみせる部長に、私と野田さんの声が重なった。