ビタージャムメモリ
先生がああいうふうに接してくれる以上、私はもう、仕事以外のことで弁明したり謝ったりすることはできない。

"広報部の香野"以外の振る舞いをするわけにはいかない。


じゃあ、これからどうすればいいんだろう。

ずっとこのまま?


…別に、充分なんじゃないの、それで。

それ以上、どうしたいの、弓生。





「そわそわしてるね」

「だって、心配で…」

「大丈夫だよ、あの人も、だてに広報部長やってきてないって。言葉悪いけど、メディアの転がし方は心得てるよ」

「そうですよね」



口では納得しつつ、引き続きそわそわしてしまう私を野田さんが笑った。

追加予算の申請書を作りながら、祈るような気持ちでいた。

どうか、うまくいきますように。



「これ、部長が戻られたらご相談したいんです、どうですか」

「どれどれ」



見積書と申請書を渡すと、じっくり見てくれる。

うん、問題ないと思うよ、という返事をもらった時、デスクの電話が鳴った。





「あっ、眞下さん!」



洗面所に入ろうとしていた私は、その奥にある男性用から出てきた先生を見つけ、思わず声をかけた。

プロジェクトの打ち合わせが終わったところなんだろう、この後は私たちと、発表会の定例会がある予定だ。

こんな場所でつかまると思っていなかったのか、先生は驚いた顔をして、「はい」と律儀な返事をした。



「あの、うまくいったんです、昨日。聞いてみたら、今回の発表会が媒体社さんの間でかなり話題になっているようで、それでなおのこと誤解が強まって」

「…えーと、お土産の件で悩んでいた、あの媒体のことですか?」

「そうです、あっお土産も、先生に教えていただいたところでご用意して、そうしたら今日、すごく熱烈なお礼のメールをいただいたんです」

「それはよかった」

「ありがとうございました、編集長の紹介で参加する媒体社さんも増えて、お客様集めもトラブルは全部解決して、今日はいいご報告がたくさんです!」


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